過敏性腸症候群とは
検査をしても腸に炎症や潰瘍・ポリープ・がんなどの器質的異常が見られないのに、腹痛や便秘・下痢・膨満感などの苦痛が続く病気を過敏性腸症候群と言います。日本人のおよそ10%が発症しているとされ、近年増加傾向にあります。多くは過度なストレスや食生活の欧米化などが挙げられます。この場合、機能を改善することによって、症状が緩和していくとされています。目に見える異常が得られずに症状だけがつらいため、周囲の理解が得られにくい悩みを抱える方が多いのもこの疾患の大きな特徴です。
過敏性腸症候群の症状
1下痢型
突然、激しい下痢症状が起こります。強い腹痛と急激な便意のため、通勤や通学など交通機関を使う場面に不安を感じるようになります。この不安な精神状態が症状をさらに悪化させて外出が難しくなったり、さらなる悪循環を招く恐れがあります。
2便秘型
便秘症状と強い腹痛が主な症状です。強くいきんでも排便がなく、出てもウサギの糞のような硬くて小さいコロコロとした便が少量出るだけです。腸管が痙攣することで便が停滞することが原因とされます。
3交代型
便秘と下痢の症状を交互に繰り返す状態を交代型と言います。いずれも腹痛を伴います。
4腸管運動異常型
消化管の運動異常や、消化管の知覚過敏などの機能的障害が原因となるタイプ。ストレスなどの心理的問題がきっかけとなることが多いようです。
5腸管形態異常型
大腸の形が問題となり便の通過障害が原因となるタイプ。大腸の固定が緩い場合や、手術や炎症による癒着などが原因で大腸が捻じれていたり、曲がりくねっていることで通過障害が起こります。便秘と下痢を交互に繰り返す交代型がほとんどこのタイプといわれています。
6胆汁性下痢型
胆のうから分泌される消化液である胆汁が原因で下痢を起こすタイプ。食後(特に朝食後)20~30分後からで下痢症状が始まることが多いようです。
過敏性腸症候群を引き起こすきっかけ
明確な発症メカニズムが明らかになっていませんが、主な原因として消化管の運動異常や、消化管の知覚過敏などの機能的障害が原因と考えられています。また、自律神経が消化管機能をコントロールしているため、ストレスなどの心理的問題がきっかけとされています。さらに、感染性腸炎にかかったあとに過敏性腸症候群になってしまうケースがあるため、免疫異常の関連性も指摘されています。
過敏性腸症候群の診断
過敏性腸症候群の症状は、様々な消化器疾患でも見られるため、診断の際にはほかの病気でないことを確かめておく事が必要です。特に大腸に器質的異常がないかを調べるために、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受けておくことが重要です。大腸に器質的異常がないことを確認したうえで、世界的判断基準であるRome基準に沿って判断します。
RomeⅣ(R4)
最近3カ月で、月に4日以上腹痛が繰り返し起こり、下記のうち2項目以上あてはまる場合は過敏性腸症候群の可能性があります
- 腹痛などの苦痛症状が排便によって軽快する
- 症状の有無によって排便の頻度に変化がある
- 症状の有無によって便の状態に変化がある
また、上記診断基準を満たしていない場合でも、総合的に判断して過敏性腸症候群と診断されるケースもあります。したがって、診断基準に当てはまらなくても躊躇せずに専門医師にご相談ください。
治療方法
生活習慣の改善
症状緩和につながるよう、これまでの食生活や不規則な生活習慣を改善していきます。大量の飲酒や喫煙・辛いものなどの刺激物を控えます。規則正しい生活を心がけて、過労やストレスを避け、十分な睡眠を心がけます。
運動療法
血行促進と腸機能改善のために適度な運動を行いましょう。軽い運動を習慣化させるために、ストレッチや速足の散歩、水泳、ジョギングなどから始めてみましょう。激しい運動や強い負荷は必要ありません。
薬物療法
日常生活に支障をきたすほどの症状のある場合、症状を緩和させるために薬物療法を行っていきます。薬剤の種類が豊富で、効果の現れ方に個人差があります。したがって、患者さんのお悩みや症状など細部にわたり留意しながら適切な処方をしています。症状による不安感などを抑制するために、必要に応じて短期間の抗不安薬や抗うつ薬を処方します。市販薬ではなかなか効果が見られない場合でも、新しい作用で症状緩和が期待できる薬剤も出てきています。さらに、漢方薬の処方や乳酸菌などもあるので、ご要望がある場合は気軽にご相談ください。