炎症性腸疾患
消化管に慢性的な原因不明の炎症が生じて、びらんや潰瘍などの病変が形成される病気を炎症性腸疾患と言います。大腸粘膜のみに炎症が起きる「潰瘍性大腸炎」と、口腔から肛門までのあらゆる消化管に炎症が起きる「クローン病」があります。どちらの病気も根治に至らない難治性の疾患であり、厚生労働省より難病疾患として指定されています。主下痢や腹痛・血便・貧血・発熱などが主な症状ですが、腸以外にも色々な合併症が現れることもあります。
潰瘍性大腸炎とは
潰瘍性大腸炎の診断
潰瘍性大腸炎の「診断基準」があるので、この基準に則って、自覚症状・大腸内視鏡検査所見・病理検査所見などから総合的に診断されます。大腸内視鏡検査では炎症の形態・範囲・部位などを把握するほか、粘膜の一部を採取し病理診断を行います。また、細菌やウイルスによる感染性腸炎、薬剤起因性腸炎など、その他の腸炎ではないことを確認しておくことも必要です。
主な症状
下痢・血便・痙攣性或いは持続的な腹痛が見られます。さらに重症になると、下痢の回数と血便の量が増します。そのほか、発熱・貧血・体重減少などが現れます。腸管外合併症としては、関節や皮膚・眼科症状が現れることがあります。これらの症状を寛解したり増悪したりを繰り返します。
潰瘍性大腸炎の分類
病変の広がりによって、全大腸炎型・左側大腸炎型・直腸炎型・右側または区域性大腸炎に分けられます。潰瘍性大腸炎は、活動期と寛解期の2つの時期を繰り返す疾患とされています。発症してから10年以上経っている直腸炎型以外の潰瘍性大腸炎患者さんは、炎症によって腸粘膜に遺伝子変化を蓄積していることから、大腸がん発症リスクが高くなっています。したがって、定期的な大腸内視鏡検査が必要とされています。
当院の治療法
潰瘍性大腸炎は根治が難しいため、大腸粘膜の異常な炎症を抑えること、症状をコントロールすることが主な治療の目的となります。内科治療としては、5-アミノサリチル酸薬製剤・副腎皮質ステロイド薬・血球成分除去療法・免疫調整剤或いは抑制剤・抗TNFα受容体血拮抗薬・JAK阻害薬があります。ほとんどの場合、5-アミノサリチル酸薬製剤などの内服治療で改善が見られますが、再燃を繰り返す疾患のため、症状が良くなっても継続して服薬する必要があります。これらの内服治療で改善できない場合は、血球成分除去療法・抗TNFα受容体拮抗薬・JAK製剤・副腎皮質ステロイド薬などを用いて治療を行います。それでも症状が抑えられない場合は、大腸の全摘手術が行われることがあります。薬物療法と同時に、下痢や腹痛を起こしにくい食事療法を行います。
クローン病とは
主な症状
主に小腸や大腸に炎症が現れるため、腹痛や下痢・血便などが見られます。病変の部位や程度によっても異なりますが、口の中から肛門まであらゆる部位に症状が現れる可能性があります。さらに、炎症が慢性化・増悪することによって、下血・発熱・貧血・倦怠感・体重減少などの症状が現れます。また、腸管の合併症として、狭窄・瘻孔・膿瘍、肛門部病変など、腸管外の合併症として、眼や皮膚、関節などに症状が現れることがあります。とくに肛門周囲膿瘍といった肛門病変からクローン病と診断されるケースが多く見られます。
クローン病の診断基準
検査によってクローン病の特徴的な所見が認められた場合、また採取された検体病理検査において特徴的な所見が認められた場合、クローン病の診断基準に沿って総合的に診断します。肛門病変などがある場合は、それが発見のきっかけや診断基準となることもあります。
当院の治療方法
治療には、栄養療法・薬物療法・外科治療があります。クローン病を根治させる治療方法がないため、主に栄養療法と薬物療法の内科治療を行いながら症状を緩和させ、生活の質を向上させて快適に過ごすことが治療の目的となります。症状が改善したあとも再燃を防ぐためには継続して服薬を続けることが大切です。腸閉塞や穿孔・膿瘍といった合併症には外科治療が必要です。抗TNFα受容体拮抗薬によって、手術が必要になるケースが減ってきています。
注意事項
クローン病は、腸管壁深層までに炎症が及びます。炎症を繰り返すので、腸管へのダメージが蓄積し、狭窄へと進行します。これらの合併症を引き起こさないように、寛解状態を長く維持することが非常に大切です。そのため、活動期以外の症状が落ち着いている時期でも継続して治療を行う必要があります。また、定期的に検査を受けてご自身の病状を把握しておくことが大切です。日頃の食事では、動物性脂肪を控えた食事療法を継続していきます。